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2008年1月12日 (土)

エベレストとロレックス

ヒラリー氏が亡くなりました。(合掌)
ヒラリーといっても米大統領候補のあの方ではありません。1953年エベレスト初登頂に成功した登山家のエドモンド・ヒラリー卿です。

エベレスト初登頂のエドモンド・ヒラリー氏死去
2008年01月11日10時03分

http://www.asahi.com/international/update/0111/TKY200801110043.html

参考リンク:ロレックス公式サイト>エドモンド・ヒラリー卿のページ

Hillary_norgay_w150ヒラリー卿といえばエベレスト初登頂成功時にROLEXの時計を使用していたと取り上げられる事がありますが、実はロレックスを着けていたのは同行していたシェルパのテンジン・ノルゲイ氏であったことは時計好きの間では周知の事実。(ヒラリー卿はイギリスSMITH社の時計を使用していた)

当時ROLEX社は、自社製品のエベレスト登頂を宣伝のネタにするため、初登頂を目指す各国の登山隊や地元シェルパに自社の製品を幅広く提供し、誰が成功しても「初登頂した腕時計はROLEX」になるようにしていたという話もあるようです。 

また、ロレックスの時計にはExplorerというシリーズがラインナップされているので、エベレスト登頂に使用された時計はその当時のエクスプローラーだと思われがちですが、エクスプローラーはエベレスト初登頂成功後にそのイメージを踏襲したモデルを、ということで製品化されたモデル。

その後は以下に紹介するようにラインホルト・メスナー、近年ではアーリング・カッゲやエド・ビエスチャーズといった実際にエクスプローラーを使用して(させて?)第一線に臨む人物を起用し、ROLEXのタフネスさと信頼性を訴求する広告展開を行っています。


では、エベレストに登ったのはどんな時計だったのか?

これまでに入手した過去の資料をもとに紐解いてみることにします。

Rolex Magazine Ad. 1982 1982年の雑誌広告

1978年に無酸素登頂に成功したラインホルト・メスナー氏が登場し、高峰登山におけるロレックス・オイスターの性能を自ら語る内容です。

この広告によるとメスナー氏が登頂時に携行していたのは、時計雑誌では定説となっているエクスプローラーII (Ref.1655)ではなく、何とデイトジャストのクォーツモデル。

広告中では、エベレスト登山の装備としてこの時計を選んだ理由として「クォーツの精度・オイスターケースの防水性・1000エルステッドの耐磁性」の3つが挙げられています。

80年代初めという時期は、高精度で安価な日本製クォーツが世界を席巻していた時期ですからロレックスも機械式にこだわり続けるべきか否かを模索した末、特別な価値を持つクォーツとしてこの広告を行っていたのかもしれません。

Rolex_1982_quartz広告中には実際に山頂で時計を着用している写真が掲載されており、写っているのは間違いなくオイスター・クォーツ。

考えてみると時計雑誌に掲載された写真では、メスナーが登山中にエクスプローラーIIを着用している写真は見た記憶がないような気がします。しかし、実際の登山に使ったのはエクスプローラーで、広告のために写真撮影の時だけオイスタークォーツに付け替えていたということも考えられる。

さて、真実はいかに?

Rolex Magazine Ad. 1979続いて1979年の雑誌広告

1953年に初登頂したエドモンド・ヒラリー氏と前出のラインホルトメスナー氏が同時に登場しています。

ここで紹介されている時計は、

ヒラリー:
オイスターパーペチュアル
(バブルバック)

メスナー:
オイスタークォーツ
デイトジャスト

となっている。



メスナーの時計は、やはりオイスタークォーツだったのだろうか・・・?

Rolex_1953_oyster
そしてヒラリー卿のパートで紹介されている時計が何とバブルバック!!

アラビア数字インデックスにペンシルハンドとセンターセコンドを合わせた革ベルトのNAモデルです。

メーカーから支給された物であれば、その時の最新モデルを提供するのが普通と考えられますから、50年代初期という時期を考えるとバブルバックではちょっと古すぎるのではないか? でもわざわざメーカー自身の広告に写真を掲載するくらいだから、実はこれが真実だったのか??

でもそれでは"Explorer"のイメージとはずいぶんかけ離れたものになってしまうな。。。



そして最後にこちらの資料。

スイスのROLEX本社が発行している広報誌"Perpetual Spilit No.11"の記事中に掲載されている写真です。

Rolex_1953_everest
おそらくはこれが真実でしょう。

"1953年のエベレスト登山隊のメンバーによって着用されたオイスターパーペチュアル" という説明があり、これこそが正にテンジン氏が着けてエベレスト山頂に上った時計そのものと思われます。

50年代初期のオイスターパーペチュアル、いわゆるビッグバブルと呼ばれるタイプで年代的にも一致します。

こちらで同型の時計を発見。
これによるとRef.6084というモデルになるようです。
しっかし、こういうデザインのモデルを現行で出してくれないですかね・・・


余談ですが、以前テンジン氏の息子 ジャムリン・ノルゲイ氏と一緒に登山をしたことがある登山家の方と話をする機会があり、その際に「ジャムリンは "父から譲り受けたロレックスの時計を持っている" と話していた。」と聞いたことがあります。

エベレストに上った現物がロレックス社のもとにあるのだとすれば、ロレックス社は登頂成功後に時計を回収し、テンジン氏には別の時計を贈ったのでしょうか。それはそれでどんな時計なのか? 興味があります。

追記:1月20日】

ジャムリン・ノルゲイが父親からもらったというロレックスの時計についての情報がこちらのブログにありました。

西蔵坊だより:エクスプローラーとアルピニスト
ジャムリン氏の著書に件の時計について記述があるとのこと。

それによるとテンジン・ノルゲイが元々所有していたROLEXは、オーストリアの冒険家ハインリッヒ・ハラー(セブン・イヤーズ・イン・チベットの著者)からもらったもので、1940年代に二人がラサで過ごした記念の品だということである。

1940年代・・・もしかして上の日本ロレックスの雑誌広告に掲載されているバブルバックこそが、そのテンジン氏が所有していた時計なのではないだろうか....?


追記:1月29日】

西蔵坊だより:エベレストについて -再記と追記-

テンジンから息子ジャムリンへと受け継がれたロレックスの時計に関する記述について、さらに詳しい内容が書かれています。これは、まさにロマンです・・・

追記:2010年11月】

なんと! 驚くべきことに アンティコルムのオークションにヒラリー卿が愛用したロレックスの時計が出品されました。

Hillary_rolex6084
Rolex、"Oyster Perpetual, Officially Certified Chronometer" Ref. 6084、1953 年より。 この時計は、ヒラリー卿がエベレスト登山に成功後、 Rolex Bosecks、Calcutta、India より送呈されたもの。

まさに、"Perpetual Spilit No.11"に掲載されている時計と同型です。

しかし、これは後から贈られたものということで、やはりヒラリー卿は初登頂時にはROLEXではない時計を着けていたのでしょうね。。。 長年の謎にようやく終止符が打たれた感じがします。

詳細はAntiquorumのページでご覧ください。
http://www.antiquorum-japan.com/pdf/210114PR.pdf

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コメント

ふ〜〜ん。時計からみた登山記録って面白いね。
ちょうど先週末に三浦雄一郎さんが朝のNHKに出ていてヒラリー卿とのエピソードを聞いた所で訃報だったので、「おや」と思っていました。

今日は、チビの模試だったのですが、朝パッと時計をつけて出かけてふと時計をみたら、まったくトンチンカンな時刻を示していてまったくの役立たずでした・・・。毎日してないと止まるってのはコマルヨ。高いのにサ。

投稿: minmin | 2008年1月13日 (日) 21時37分

でも、ゼンマイは巻けば動くから。突然電池切れるとどうにもならないクォーツだとそうはいかない。

登山家などがゼンマイ式を選ぶのは、そういうトラブルを考慮してということもあるらしい。最近はクォーツ派も多いらしいですが。

いよいよ受験シーズン本番突入ですな。がんばってください。

投稿: 富士山 | 2008年1月14日 (月) 15時43分

ジャムリンテンジンの文章にであったときも興奮したんですが、貴「エベレストとロレックス」を読んでさらに興奮しております。
想像の域はでませんが、歴史の綾を感じさせるスゴイはなしですよね。

当方、時計についてはなんの知識もないため、稚拙な当blogの記述については、恥じ入るばかりです。近々、訂正等を追記しようと思っています。


西蔵坊

投稿: 西蔵坊 | 2008年1月25日 (金) 15時19分

西蔵坊さま

いえいえ、こちらこそ興奮して思わず追記してしまいました。

ロレックスは宣伝上手ですからね・・・

 エベレストに初登頂した人 =ヒラリー卿
 エベレストに初登頂した時計=ロレックス

を、いつのまにか 「ヒラリー卿=ロレックス」 に定着させてしまっているのは見事というほかありません。

投稿: 富士山 | 2008年1月26日 (土) 00時07分

ジャムリン・テンジン・ノルゲイ氏の著述より、腕時計に関するところです。

『・・・手首に巻き付けた、母の形見の念珠が、今では冷たく肌に触れている。もう片方の手首には、ロレックスの腕時計をはめている。これは、父が、オーストリアの冒険家、ハインリッヒ・ハラーからもらったもので、1940年代に二人がラサで過ごした記念の品なのだ。ドイツ人のハラーは、第2次世界大戦が勃発したとき、ナンガ・パルバットで登山していて、イギリス軍に捕らえられ、北インドの捕虜収容所に入れられた。ハラーは、仲間のペーター・アウフシュナイターと共に、そこから脱出し、ヒマラヤを乗り越えてチベットに入り、1年以上かけてラサに到着した。一方、父は、トゥッチー教授のお供でチベットを回っているうちにハラーと巡り会い、二人は友人となった。腕時計は、壊れたまま何年も放ってあった物を、私がロレックス社へ修理に出した。同社は、無償で修理して送り返してくれた。添付してきた書き付けが、この時計は歴史的に価値のある物だと力説していた。』

投稿: 西蔵坊 | 2008年1月29日 (火) 01時21分

西蔵坊さま
す、すごい・・・
重ねてありがとうございます。想像が膨らむばかりです。

投稿: 富士山 | 2008年1月29日 (火) 23時35分

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