日本経済新聞 - NIKKEI NET 2007年7月22日
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20070722STXKG017821072007.html
在来魚と外来魚がすみ分け・琵琶湖周辺
琵琶湖とつながる周辺の湖「内湖」で、コイやフナなどの在来魚と、外来魚のオオクチバスやブルーギルの繁殖場所が異なり、すみ分けているとの調査結果を滋賀県琵琶湖環境科学研究センター(大津市)と近畿大が21日までにまとめた。
湖底の状態などが影響しているとみられ、同センターは「在来魚を守る環境づくりのヒントになる」と話している。
滋賀県近江八幡市の「西の湖」の湖岸と周辺の湿地、水路計54カ所で稚魚を調べた。外来魚と在来魚が両方生息していたのは6カ所で、ほかは一方だけだった。
湖岸27地点では、合計で外来魚が約1370匹、在来魚が約70匹だった。湿地や水路の27地点では、在来魚が約410匹に対し、外来魚は1匹だけだっ
た。湖岸は、在来魚が卵を産み付けるのに必要なヨシが水中に育っておらず、湖底は砂や小石が多く、外来魚がすり鉢状の穴を掘って卵を産むのに適している。
湿地や水路は、陸地から水中になだらかにヨシ帯が続き、硬い泥地の底が多く外来魚が産卵するのは難しいとみられ、在来魚向けの状態という。
同センターの西野麻知子琵琶湖環境研究部門長は「今後湖周辺を工事する際には、在来魚が繁殖しやすい状態にするよう考慮すべきだ」と話している。
同記事掲載:
中国新聞 http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200707210295.html
東京新聞 http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2007072101000248.html
============================================================
朝日新聞 asahi.com 2007年5月27日
http://www.asahi.com/life/update/0526/TKY200705260169.html
アユ、多摩川にいらっしゃい
東京湾に注ぐ多摩川をアユなどが自由に上れるようにと、魚にとって最初の障壁となる調布取水堰(ぜき)が今春、大幅に開放されている。今月末までの予定で、川を管理する国土交通省と、堰を管理する東京都水道局の協力で初めて実現した。地元漁協も歓迎している。
河口から約13キロの位置にある調布取水堰は1936年に完成した。多摩川本流の堰やダムでは最も下流にある。左岸は東京都大田区、右岸は川崎市。コンクリート製の魚道が2カ所あり、毎年、春先には跳びはねて急流を上るアユが見られる。
「海から上りたての小さなアユはまだ力が弱く、魚道を上るのが難しい」と川崎河川漁業協同組合の総代、山崎充哲さん(48)は語る。一番下流の調布取水堰が「最大の難関」という。
この取水堰は、工業用水と防潮が目的。今年は装置の点検で取水を中断しており、長期間、堰を開けることが可能になった。川の中ほどにある高さ1.
6メートル、幅7メートルの起伏堰5個を完全に倒し、川幅の約3分の1にあたる35メートルほどを開放。満潮で川の水位も高くなると、上流と下流の水位が
そろい、生き物が自由に行き来できる。
堰では調査員が週3日、川を上る若アユを数えている。開放が始まった4月12日からこれまで推定六十数万匹以上が上った。川崎漁協によると昨年は推定で約127万匹が上ったが、今年はそれ以上になりそうだと期待は大きい。
ほかにも、ボラやスズキなど海と川を行き来する魚が、調布取水堰から約10キロ上った地点で見つかった。山崎さんは「泳ぐ力が弱いテナガエビやモクズガニ、ハゼなども上れるようになる」。
多摩川上流では、アユ釣り用に他県産のアユを放流している。近年は海から上る天然アユが増えており、川を上るアユは推定で約100万匹を超す年もある。
(写真)多摩川を遡上(そじょう)するアユ。堰の開放前は跳びはねる光景が見られた=4月10日、川崎市で
============================================================
朝日新聞 be on Sunday - asahi.com 2007年5月27日
http://www.be.asahi.com/be_s/s01.html
マイワシ激減、兆しは19年前
高知・土佐湾。いま、日本の太平洋岸のマイワシの6割以上がここで生まれている。激減したマイワシの「最後の聖域」だ。
秋から翌夏にかけ、水産総合研究センター中央水産研究所や各県の水産試験場などが船を出す。網で海水をすくい、入った卵を数えて全体量を推定する。
同研究所高知黒潮研究拠点の石田実・主任研究員がそのデータを分析した。
豊漁の80年代。鹿児島から千葉沖のどこでも卵がとれた。推定数は年800兆~9000兆粒。土佐湾は25兆~250兆粒で、シェアは数%に過ぎなかった。
90年代後半、卵をすくえる海域が減った。02~05年は年に33兆~93兆粒。土佐湾は6兆~60兆粒で、結果的にシェアは増えた。
いったいマイワシに何が起きたのか。
「あれが兆候でした」。渡邊良朗・東大海洋研究所教授(海洋資源生態学)が振り返るのは88年秋のことだ。北日本沖の太平洋に、その春に生まれたマイワシの群れがみられなかった。
太平洋沿岸で生まれた卵は、暖流の黒潮に流されながら孵化(ふか)し、房総半島の沖、黒潮に続く黒潮続流に運ばれ、ベーリング海から南下してくる寒流の親潮に向かって北上する。
それまで年2000億~3000億匹が育って北上したが、88年はその10分の1ほど。89~91年も若い魚が見られない。それでも推定の卵数は年4000兆粒前後。90年は6700兆粒もあった。
実は、その裏で親魚の高齢化が進んでいた。主に2歳魚から卵を産むが、「産むのが3歳を超える一方、子が少なく後が続かなかった」と中央水産研究所の西田宏・資源動態研究室長。
乱獲の影響? 「その場合はまず親魚が減っていく」と渡邊さん。
カツオやマグロに食べられた? サンマなど似た海域の魚も食べられるはずなのに、こちらは豊漁だ。
安田一郎・東大海洋研究所教授(水産海洋学)は「黒潮続流の水温の影響ではないか」と考えている。
孵化した魚がその年にどれくらい死んだか(死亡係数)を、海域の1~4月の水温偏差と重ねると、ほぼ一致した。88年は前年より1度ほど上がっていた。21世紀も高温傾向が続く。
土佐湾も事情は同じはずだが、一本釣りの伝統から、まき網漁が認められていないことで、マイワシが産卵しやすい場所になっているようだ。
その土佐湾で、1歳魚がもう産卵している。日本海区水産研究所の森本晴之・生物生産研究室長が高知にいた94年に報告した。
数が減り1匹分のエサが増えたためなどとみられるが、早く仲間を、という自然の仕組みかも知れない。
気候変動で水温上がる
「朝、イワシ船団の漁が終わると、きんちゃく網漁船が汽笛を鳴らし、船足も重く湾内に入ってくる」
20世紀の初め、マイワシ漁で栄えたカリフォルニア州のモントレーを、米国の文豪ジョン・スタインベックは「キャナリー・ロウ」(井上謙治訳、大阪教育図書「スタインベック全集」から)で描いた。
水揚げされた豊富なマイワシは、どんどん缶詰めにされた。だが、やがて漁獲量が減り、第2次世界大戦のころから漁業は廃れていった——。
マイワシの仲間は世界に6種類知られている。いずれも好不漁の波を繰り返している。日本など東アジア沖のマイワシ、北米カリフォルニア沖のマイワシ、さらには南米チリ・ペルー沖のマイワシは、ほぼ同時期に増減を繰り返してきた。
海挟み同現象
モントレーの缶詰工場が最盛期だったころ、太平洋の対岸の日本でも、マイワシの大漁に沸いた。
太平洋という広い海を挟んだ両側。さらに北米と南米で、どうして同時期にマイワシの資源変動が生じるのだろうか。
「アリューシャン低気圧の変動と関係していると推定される」と安田一郎・東大海洋研究所教授はいう。この低気圧は、北太平洋全域の気候や海洋環境に影響を与えることが、20世紀のデータから明らかになっている。
ふつうアリューシャン低気圧が強い冬、日本付近は冷たい北西の季節風が強まり、海が冷却される。北米西岸では、暖かい南西からの風が強まって気温が上昇し、海が暖められる。
太平洋の東西で、アリューシャン低気圧に連動した気候・海洋変動が起き、それがマイワシの増減の周期を合わせる、というのだ。
「レジームシフト(構造的枠組みの転換)」と呼ばれる考えで、将来の資源変動を予測するのに有効なのではないか、と研究が進められている。
日本周辺では88年に低水温から高水温へのレジームシフトが起きた、とみられるという。低水温を好むマイワシが減少する一方で、90年ごろから高水温を好むカタクチイワシが増えてきたのがよく説明できる。
一方で、安田さんは「日本ではマイワシは水温が低いときに増え、カリフォルニアでは暖かいときに増えてきた。それがなぜなのか、まだ分からないことが多い」と話す。
安田さんは最近、千葉・房総半島沖から日付変更線辺りにかけての黒潮続流域に注目している。
この海域の水温などの変化が、アリューシャン低気圧や、冷たい気圧の張り出しなどにかかわる北極振動よりも、数年早く生じることを見いだした。
まだ研究が必要だが、ここでの熱の放出が大気に影響を与えている可能性があるというのだ。
禁魚して増加
自然変動なら、いずれ増える時が来るに違いない、という見方もできる。日本のマイワシ漁獲量は今、数万トンだが、80年代には400万トンを超えていた。
もっとも、資源を増やすため、人ができることもあるようだ。
渡邊良朗・東大海洋研教授によると、東アジア沖のマイワシの増減と歩みを合わせてきたカリフォルニア沖が最近、少し異なってきたという。
カリフォルニア州は70年代から80年代にかけて、マイワシ漁を原則禁止するなど規制した。そのおかげもあって、90年代から、順調に増えてきたそうだ。
最近のシラスはカタクチ
マイワシはニシン目ニシン科の魚。卵は直径1.5ミリほど。クロマグロは約1ミリなので、それよりも大きい。生まれて数日で孵化(ふか)し、1~2カ月で2~3センチに成長。1年で15センチ前後に育つ。寿命は7~10年とされている。
カタクチイワシは同じニシン目だが、カタクチイワシ科に属する。大きさも10センチ程度と、マイワシより小さい。適する水温が6度ほど違うとされ、いまの「高温状態」はカタクチイワシに向いているようだ。
シラスを食べるとマイワシ資源に打撃では、と心配する向きもあるが、実は近年のシラスはほとんどがカタクチイワシだ。ほかにわずかながらウルメイワシもある。
(文・小西宏、写真・西畑志朗)
(写真)1万5000匹のマイワシとカタクチイワシがなす群れは壮観だ。身近な魚の「自然な姿」は人気だという=大阪市の海遊館で
最近のコメント